すぐに使えて便利な液体ミルク。子どもが生まれる前から用意するパパママも。

粉ミルクのように「お湯で溶かした後に飲みやすい温度まで冷ます」手間がなく、開栓して哺乳瓶に移し替えるだけで赤ちゃんが飲める利便性の高さが魅力の乳児用液体ミルク(以下、液体ミルク)。アメリカやフィンランドなどでは店頭に並んでいたものの、日本では2019年3月にようやく国内販売が解禁されました。販売が始まって約2年が経った現在、液体ミルクが子育てにどう影響しているのかを見ていきましょう。

お湯がない環境でも授乳ができる。常温保存で災害時の備えに最適。

日本で液体ミルクの有用性が注目されるきっかけとなったのが、2016年4月に発生した熊本地震です。この時、フィンランドから支援物資として液体ミルクが届けられました。調乳に必要なお湯や冷まし水が不要ですし、断水で哺乳瓶が洗えない環境でも紙コップで授乳ができます。また常温で保存できることから災害時の備蓄用としての価値を多くの人が知ることになりました。こうした背景もあり厚生労働省は2018年8月に法改正を行い、翌2019年4月、ついに日本でも液体ミルクが国内で手に入ることになったのです。

粉ミルクは液体ミルクと違い、開栓後の保存期間が長いほか安価な点が魅力です。しかし最大の難点は、赤ちゃんが飲める状態にするために以下のようなステップ(調乳)を踏む必要があることです。

・必要量の粉ミルクを専用スプーンで哺乳瓶に入れる。
・熱湯で粉ミルクを溶かし、溶け残りがないように混ぜる。
・哺乳瓶に水をかけ、適温までミルクを冷ます/もしくは冷まし水を加える。

一つひとつの手順は大した負担ではありません。しかしお腹が空いて泣く赤ちゃんをあやしながらの準備はなかなかに大変です。授乳は1日に何回もあるので、パパママにとって調乳は負担です。対して液体ミルクは缶もしくは紙パックを開栓後、哺乳瓶に移し替えればすぐに授乳ができるため、相当に楽です。

外出時の授乳が圧倒的に楽になる。お湯を持って出かけなくていい。

パパママは液体ミルクをどんな時に使っているのでしょうか。国内で液体ミルクを製造、販売している江崎グリコ株式会社は昨年3月、解禁1年を契機として、1歳までの子どもを持つパパママ1000人を対象に行ったアンケート結果を発表しています。

液体ミルクの使用シーンで最も多いのが、「外出時に授乳するとき」(70.4%)で、続く「どんな時に利用できそうか検討するための試用」(30.4%)に大差をつけています。大型ショッピングセンターの授乳室ではお湯が出るケースがありますが、そのような場所ばかりではありません。パパママが赤ちゃんと外出する場合、粉ミルクを溶かすためのお湯を持ち歩く必要があり、荷物が増えます。液体ミルクならお湯いらずなので、外出のハードルが下がりますね。

液体ミルク使用シーン
出典:江崎グリコ株式会社「液体ミルクに関する調査」より


液体ミルクの使用後に育児に起こった変化を聞くと、「災害備蓄への安心が増した」(83.8%)が最も多く、「赤ちゃんを待たせる時間を短縮できた」(69.8%)、「気軽に外出できるようになった」(59.2%)が上位にランクインしました。

パパが授乳をするきっかけになっている。

ほかには「育児を楽しめる心のゆとりが増えた」(38.9%)や「配偶者/パートナーや家族に代わってもらいやすくなった」(28.2%)、「夜の授乳の負担が減った」(25.2%)など、調乳の手間がない液体ミルクがパパママの生活の様々な場面で良い影響を与えている様子がうかがえます。

育児の変化、液体ミルク
出典:江崎グリコ株式会社「液体ミルクに関する調査」より


また液体ミルクがパパの授乳機会を作るメリットもあります。パパに「液体ミルクが自分自身の授乳のきっかけになったか」を聞くと、29.6%が「はい」と答えています。

双子や三つ子を育てる家庭の救世主。「気持ちにゆとりが持てるようになった」

1日に何度も行う授乳は、双子や三つ子を持つ「多胎家庭」には特に大きな負担になります。2020年7月、日本産前産後ケア・子育て支援学会と日本多胎支援協会は共同で「液体ミルクの使用を通した、多胎児の母親が感じる『気持ちの余裕』『生活の充実度向上』についての考察」と銘打った調査結果を発表しました。

1歳未満の多胎児を持つママ112人に液体ミルクを2週間使ってもらい、使用前後での意識の変化について聞いた調査です。「液体ミルクを使って良かったこと」を聞くと、回答の上位は「調乳の手間が軽減できた」(77.7%)や「調乳の時間が短縮できた」(70.5%)でした。

液体ミルク使って良かったこと
出典:日本産前産後ケア・子育て支援学会、日本多胎支援協会共同「液体ミルクの使用を通した、多胎児の母親が感じる『気持ちの余裕』『生活の充実度向上』についての考察」より



実際、多胎育児をしているママの約9割が「授乳回数の多さにストレスを感じる」と答えており、液体ミルクがそんなママたちの助けになっていることがわかります。液体ミルクを使うと授乳者を問わないことから、ママ以外の人が授乳に関わりやすくなります。液体ミルクの配布前後で母親以外で授乳に関わる方の割合を見ると、「配偶者/パー トナー」が 81.3%から 92.0%へ、「実父母」が 34.8%から 46.4%へ、「義父母」が 13.4%から 19.6%といずれも増えています。

育児の担い手が増えると、ママが心にゆとりを持てるようになります。液体ミルクの配布前後で「育児についてどの程度気持ちの余裕を持てているか」を聞くと、「とても気持ちに余裕がある」「やや気持ちに余裕がある」と答えたママの割合は、 47.4%から74.2%に上昇していました。

誕生前から液体ミルクを用意しておくパパママも

液体ミルクの利用について、ママのリアルな声を紹介します。都内で3人の子どもを育てる30代のママは、

「下の子は双子なので、授乳の手間と負担を軽くするために液体ミルクを用意しました。私の子どもの場合は常温を嫌がったので液体ミルクをあまり飲まなかったのですが、いざという時にすぐに使えるミルクが家にある安心感は大きかったです。現在では災害用にストックしています」

と話します。

また赤ちゃんのいる家庭で子育てサポートを行う女性も、「最近ではお子さんの誕生前から『ミルクを作る手間がなくて良さそう』との理由で液体ミルクを箱買いする方がいます」とパパママのリアルについて教えてくれました。

液体ミルクは便利な育児アイテムの一つにすぎませんし、使うかは個人の判断によります。しかし「母乳」「粉ミルク」「母乳と粉ミルクの混合」だった授乳の選択肢に「液体ミルク」が加わり、選択の幅が広がったことでママの育児負担が軽減するのは大きなメリットではないでしょうか。

(文:そのべゆういち)

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