全国の待機児童数は約5600人で過去最低。保育園利用にもコロナ禍の影響が及んでいます。

Conobie Biz magazineでは、過去数回にわたってコロナ禍におけるパパママの生活に起こった変化を取り上げてきました。今回は、秋から始まる認可保育園の入園申し込み、いわゆる「保活」を前にパパママが気になる待機児童を取り上げます。厚生労働省が8月末に発表した「保育所等関連状況取りまとめ」から見ていきましょう。

東京都や埼玉県など首都圏でも軒並み減少

今年4月1日時点の全国の待機児童数は、5634人。前年の1万2439人から6805人減少しました。待機児童数は4年連続で減少していますが、1万人を下回ったのは調査を開始した1994年以来初めてのことです。

都道府県別に見ると、全国で待機児童数が最も多い東京都は969人で前年の2343人から大幅に減少し、1000人を下回りました。

ともに厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」より筆者作成

待機児童は人口が多いエリアで多く、約6割が首都圏をはじめとした都市部に集中しています。しかし今年は東京都や埼玉県、福岡県などでも軒並み減少しており、待機児童の解消が進んでいることがわかります。

待機児童数は、保育園への入りやすさを示す指標の一つ

その理由に触れる前に、待機児童とは何かを簡単にご説明します。待機児童とは、認可保育園への入園を希望したものの入れない子どものこと。保育園は認可保育園と認可外保育園の2つに大別され、このうち認可保育園は自治体が定めた様々な設置基準を満たしているほか、保育料が世帯年収に応じて設定され家計に影響しづらいことから入園希望者が集中します。毎年秋になると翌年4月入園を目指し入園申し込みをする「保活」が始まりますが、住んでいるエリアによっては需要に対して受け入れ枠が不足しており、激しい椅子取りゲーム状態になってしまいます。

今や共働き世帯は専業主婦世帯の約2倍ですから、保活がうまくいかなかった場合、パパママが仕事を続けることが難しくなります。キャリアプランや生活設計を組み立てる際には、保育園にどれほど預けやすいのかの指標が必要です。待機児童数は、住んでいるエリアで保育園における「保育園への入りやすさ」を示す情報源の一つとして、パパママの役に立っているのです。

保育の受け皿拡大と保育園の利用を控える動きが重なった

話を待機児童の数がなぜ大きく減ったかに戻しましょう。この理由について厚生労働省は「保育の受け皿拡大」と「新型コロナウイルスによる保護者の利用控え」が考えられるとしています。過去数年の保育の受け皿と利用申込者数の推移をまとめたグラフをご覧ください。

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」より筆者作成

受け皿数は2016年には約272万3000人でしたが、政府は待機児童解消を目指して受け皿の拡充を続けたことから、2021年には約319万4000人に達しました。供給増に伴って需要も増えていき、保育の利用申込者数も右肩上がりでしたが、2021年には約282万8000人と前年から減少しています。子どもへの感染を心配して「申請控え」をしたり、育休を延長して復職時期を調整したりするケースがあったと考えられます。

またコロナ禍の保活では保育園側が保護者の見学を制限することがあり、子どもの通園を検討する保育園に関する十分な情報が得られないことを理由にパパママが保育の利用を見送ったことも想定されます。

また保育利用者数を見ても、前年比で4712人増にとどまっています。2018年以降は約6万5000人ほどの増加で推移していたことを考えると、増加幅は大きく減少してます。

ともに厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」より筆者作成

このように、保育の受け皿が拡大を続けた一方で、子どもの保育の利用を控えるパパママが増えたことで、待機児童数が大きく減少したわけです。

女性の就業率の低下も保育需要の減少に影響

保育需要の減少には、子育て世代の女性(25〜44歳)が置かれた雇用状況も関係しています。もともと保育園は共働き世帯の増加とともに発展してきました。これまで専業主婦として育児を担っていた女性が働きに出るとなれば、子どもを預ける場所が必要だからです。現行の子育て施策である「新子育て安心プラン」では、「2025年度までに25~44歳女性の就業率を82%にする」としており、女性の就業率と保育需要の間には深い関

総務省「労働力調査」から筆者作成

上のグラフは「25〜34歳」と「35〜44歳」の女性就業率の年平均の推移を示したものですが、どちらの年齢帯の就業率も年々上昇してきました。しかし2020年には「25〜34歳」の上昇幅が前年に比べて鈍化し、「35〜44歳」では低下しています。これについて今年7月に厚生労働省が発表した「厚生労働白書」では、「新型コロナウイルス感染症の影響は、非正規雇用労働者数の減少という形で現れたが、その傾向は、男性に比べ、女性により顕著に現れた」と分析。コロナ禍で女性の雇用状況が悪化したことが書かれています。

女性の就業率と保育利用申込者数をグラフにまとめると、女性の就業率が上昇するほど保育利用を希望する人が増えていることが見て取れます。

「労働力調査」と「保育所等関連状況取りまとめ」から筆者作成
就業率は年平均、保育の利用申込者数は毎年4月1日時点と調査時点それぞれ異なる

しかし今年に入ってからの25〜44歳女性の就業率を月ごとに見ると、前年比で上昇を続けています。このため、今後は保育需要が再び高まってくると予想されます。

総務省「労働力調査」より筆者作成

受け皿拡充だけでなく、保育の質の充実も大切

待機児童数は前年比で減少したものの、まだ5000人以上の子どもが認可保育園に入れない状況を考えると、パパママとしては安心できません。また待機児童には、「特定の保育園のみを希望する場合」や「認可外保育園に通いながら認可保育園への入園を希望する場合」はカウントされません。こうした「潜在的な待機児童」は全国に6万人以上いると言われています。

実際、保活が厳しくやむをえず認可外保育園に子どもを預けて復職し、認可保育園への転園を目指すパパママはいます。また保活激戦区では「大変な思いをして準備をしてもどうせ落ちるから」と入園申込自体をしないケースもあるのです。待機児童数は前年比で大きく減少したとはいえ、待機児童問題の解消には程遠いのが現状です。

また保育の受け皿が拡充されても、保育士の確保ができなければ子どもを預かれませんし、保育の質も心配です。政府が現在進めている「新子育て安心プラン」では、2024年度までに約14万人分の受け皿確保を目指すとともに、「魅力向上を通じた保育士の確保」として保育士さんの働き働きやすい環境整備も並行して実施されることとなります。

厚生労働省の資料から筆者作成

(文:そのべゆういち)

メールマガジン登録フォーム